冬の華(平野菜月)冬の華 ーオープニングー その日はとても寒く、朝から雪が降っていた。 手をこすりながら布団から飛び出し学校へ行く準備をする。 いつもと変わりない日常。 でもいつもと変わりないのはそこまでだった。 それは彼女と出会ってしまったから。 いつものように学校へと飛び出すと、外には16~18歳くらいの少女が立っていた。 透き通るような白い肌と腰までのびた白い髪の毛。 この雪の中彼女は傘もささずに、ただただ雪の降る曇り空を見上げていた。 その少女は涙を浮かべずっと雪を見つめ続けた。 その光景に目が釘付けになった。 彼女は何故泣いているのだろう。そして彼女は何者なのだろう? そんな事を考えていると彼女がふとこちらへと顔を向けた。 彼女の瞳には涙があふれ悲しげな様子が漂っていた。 「あ、あの」 そう声をかけようとした瞬間、彼女は背を向け雪の中へと消えて行った。 ー雪の中の少女ー 雪の中少女に声をかけようとした時誰かの声が平野菜月の声と重なった。 声のあった方向を見るとそこには25~27くらいと思われる青年が立っていた。 身長は平野より少し高く細身の平野に比べると少ししっかりとした体型に見えた。 平野は蒼イオナの方へ振り向くと蒼イオナは声をかけろと言うようなジェスチャーをしてみせた。 平野は意を決するとその青年に声をかけた。 「あの、あなたもさっきの少女を見たんですか?」 青年は平野の問いかけに頷くと 「あなたも見えたんですね。俺はあの少女を追いかけてみようと思っているのですが、あなたはどうしますか?」 その言葉に平野は少し考え蒼イオナを見ると蒼イオナはこくりと頷いた。 その様子を見た平野は青年に向かい 「私も一緒に探します。私の名前は平野菜月。あなたのお名前は?」 青年に向かい名前を尋ねた。青年は少しためらいがちに 「俺の名前は楷・巽(かい・たつみ)。あの少女の消えた方角は神聖都学園の方角だからもしかしたら神聖都学園の生徒かもしれません。」 楷・巽の言葉に平野も頷いた。 「とりあえず、周りの人に話を聞いてみましょう。」 平野と楷・巽は付近の人に話を聞いたが、周辺の住人は決まって”このあたりでは見かけた事が無い”という返事。 平野と楷・巽は途方に暮れた。そのとき楷・巽が少し戸惑いながら 「やはり神聖都学園の生徒かもしれない。」 その言葉に平野は何故そう思うのかと楷・巽へ問いかけた。 平野の問いに楷・巽は少女が消えた方向を指差し 「あの少女が消えたのは神聖都学園の方向です。先ほども言いましたが神聖都学園の生徒の可能性が高いですね。。」 平野はその言葉を聞くと少し考え、楷・巽に向かい 「では神聖都学園へ。」 平野は楷・巽とともに神聖都学園へと歩きはじめた。 ー神聖都学園へー 学園に着いた二人はまず、少女の風貌を思い浮かべた。 楷・巽は少女の風貌を思い浮かべると平野菜月に向かい 「あの少女の背格好を見ると中学生では無さそうですね。高校生くらいと思われますのでまずは同じ年代の生徒に話を聞いてみましょう。」 その言葉に平野菜月も頷き二人は少女と同じ年頃の生徒に話を聞きはじめた。 二人が学園にたどり着いたのはちょうど昼休みの時間で、学校内には生徒があふれていた。 数人の生徒に話を聞くがなかなか二人が見た少女の話を聞く事はできなかった。 そして昼休みもあと10分で終わりと言う頃に話しかけた女生徒から 「知ってるわよ。」 という言葉を聞く事ができたのだった。 二人は顔を見合わせると女生徒に向かい詳しく少女の事を聞き出した。 少女の名前は冬木未来(ふゆき みく)。神聖都学園の高校に通う17歳との事。 その情報を聞き出すと楷・巽は女生徒に向かい 「冬木さんが雪の中泣いていたんだけど心当たりは無いかい?」 と聞いてみた。すると女生徒は戸惑いの表情を浮かべ黙り込んでしまった。 平野菜月はその様子を見ると女生徒に向かい静かに 「何か理由があるんだね。」 そう問いかけた。女生徒は頷くとためらいながらも二人に話しはじめた。 「未来は雪の降っている去年の今頃に両親を交通事故で亡くしたの。未来の両親は未来の誕生日プレゼントを買いに行く途中で雪で視界の悪くなっていた車が未来の両親に気がつかないで・・・。犯人は捕まったけど未来はずっと泣いてた。今年に入ってからも何回か雪が降ったけどその度に未来は泣いていた。」 そこまで言うと女生徒は二人を見つめ手を握り懇願した。 「お願い!未来がおかしな考えを起こさないように未来と話をしてほしいの。私も何回か話したけど未来は黙り込むだけで・・・。私じゃダメみたいなの。」 二人は顔を見合わせるとお互い頷いた。そして楷・巽は女生徒に優しく話しかけた。 「大丈夫。俺達が必ず冬木さんと話をするから安心していいよ。」 女生徒はその言葉を聞くと二人の手を強く握り小さな声で”ありがとう”と呟いた。 そして二人に冬木未来の居場所を教えた。 「未来ならきっと屋上にいるはず。雪の日はいつも屋上で泣いてるから。」 女生徒がそう言ったとき昼休みが終わるチャイムの音が校舎内に響いた。 そして女生徒は教室に、平野菜月と楷・巽は屋上へと向かったのだった。 ー冬木未来ー 屋上のドアを開けると強い風と雪に平野菜月と楷・巽は思わず目を閉じた。 そして雪の中に垣間見える透き通るような白い肌と腰までのびた白い髪の毛。 そして紺色のコートにアイボリーのマフラーを首に巻いた少女は二人が朝見た少女、冬木未来に間違いなかった。 冬木未来は不思議そうに二人を見ると少しおびえた表情を浮かべ 「誰?」 と一言だけ発した。その様子に二人はお互いの顔を見合わせた。 平野菜月は自分の傍にいる聖霊、蒼イオナへ向かい雪を激しさをおさめるよう命じた。蒼イオナは渋々ながらも平野菜月の言葉に従い激しく降っていた雪をお互いの顔が見えるくらいの状態に調節した。 激しく降っていた雪は静かに3人の周りに降り始めた。 「冬木未来さんだね。」 楷・巽は静かに冬木未来へと聞いた。未来は少しおびえながらも小さな声で答えた。 「はい、そうです。でも何で私を知っているんですか?何で私がここにいる事を・・・」 その問いに平野菜月は未来に少し近づくと静かに答えた。 「私たち2人は朝、未来さんが泣いているのを見て気になって追いかけてきたんだ。何の力にもなれないかもしれないけどでも泣いている未来さんが気になって。ここにいるのは未来さんのお友達から聞いたんだよ。」 未来はその答えを聞くと少し俯き 「見てたんですね。酷い雪だから見えないと思ったのに。」 未来の答えに楷・巽はゆっくりと未来の前に近づき未来の肩にそっと手をのせると 「俺達で何か力になれる事があれば未来さんの力になりたいんだ。話してくれないかな?」 未来は楷・巽の言葉を聞くと大きな瞳から大粒の涙を流しはじめた。 そして泣きながら二人に向かい 「誰もそんな事言ってくれなかった。私を腫れ物に触るように扱って、私の辛さなんて誰も聞こうとしてくれなかった。」 と泣きじゃくりながら二人に話した。平野菜月はポケットからハンカチを出すと未来へと黙ってさし出した。 未来は黙ってそのハンカチを受け取ると少しずつ話しはじめた。 それは未来の友人から聞いた話とほとんど同じだったが二人は黙って未来の話を聞き続けた。 「私、パパやママがいなくなってからおじいちゃんとおばあちゃんの所で暮らしてるんです。でも二人ともパパやママの事には触れないようにしているんです。私が辛くなると思ってるみたい。」 未来はそこまで言うと平野菜月から渡されたハンカチで涙を拭いた。 そしてまたぽつりと話しはじめた。 「でも私はそういう態度をとられると私のプレゼントを買いに行かなきゃパパもママも死なないですんだのにって思って、自分が生きているのがいけないような気がして。でもおじいちゃんもおばあちゃんも私が生きているのが救いだって言っているからパパとママのところに行く事もできなくて。」 楷・巽はそこまで話を聞くと未来の肩をそっと優しく抱きしめた。 「辛かったんだね。慰めにならないかもしれないけど…ずっと辛いことばかりじゃないよ。きっと癒されるよ。落ち着くまで泣いていいんだよ」 そう言うと未来に向かい励ますような言葉を投げかけた。 未来はその言葉を聞くと楷・巽の顔を見つめ大きな声で泣きはじめた。 その声は静かに降る雪の中に吸い込まれていくようだった。 ー冬の華ー 平野菜月は楷・巽の胸の中で泣く少女の様子を優しく見つめると、ふと何かを考えついたような顔になり自分の傍らにいる水と温度を操る精霊蒼イオナに向かい小さな声で何かを命じた。 蒼イオナは平野菜月の言葉を聞くといたずたらそうな顔を浮かべ指を空に向かい上げるとくるりと1回転させた。 すると空から華のような雪が3人の周りへと降って来たのだ。 冬木未来は楷・巽の胸からそっと頭をはなすと天を仰いだ。 「きれい・・・」 未来は雪の華を見上げ両手を天に向けてのばした。 楷・巽と平野菜月はその様子を優しげな微笑みとともに見守った。 そして雪の華を見た楷・巽は平野菜月へ向かい小さな声で 「平野さんの力ですか?」 と尋ねた。平野菜月はさあ?という顔をしながら楷・巽にむかい 「どうだろう。私の力なのかな?」 とはぐらかしてみせた。楷・巽はその様子を見ると仕方がないという顔をして 「まあ、未来さんの心に少しでも癒しを与えられたのなら誰の力でもいいのかもしれませんね。」 そう言うと舞い落ちる雪の華をそっと触った。 楷・巽の言葉を聞くと平野菜月は雪の華が降る屋上で笑顔で空を見つめる冬木未来を見つめ、満足げな顔で答えた。 「そうですね。未来さんが少しでも悲しさを、辛さをこの雪の華で癒す事ができたのなら誰の力でもいいんですよ。」 二人はそんな会話をしながら嬉しそうに空を見つめる冬木未来を見つめた。 そうして雪の華はいつまでも3人を包み込むように降り続けた。 冬木未来の顔には朝のような悲しげな表情は無く、華のような笑顔が浮かんでいた。 雪の華 それは少女の心に華が咲いたような明るさをもたらした。そして少女は冬に咲いたこの雪の華を忘れる事は無いだろう。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー このページに掲載している作品は(株)テラネッツが運営するオーダーメイドCOMにて製作した物です。 イラスト又は文章の使用権は各作品を発注したお客様に、著作権は『月宮 蒼』に、全ての権利はテラネッツが所有します。 ジャンル別一覧
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